衝突したのに、相手の運動エネルギーがゼロ。つまり、エネルギーは、相手に渡していない状態となる。したがって、2) の「電子が持っている運動エネルギーを、原子に渡さない。」が正解となる。
しかし、実は、この説明は、合っているようで、実は間違っている。
それはなぜか。
その理由を考えたい。
「電子が持っている運動エネルギーを、原子に渡さない。」場合、衝突した電子は、その後どうなるのだろうか。
1) 衝突後、衝突する前と同じ速度で跳ね返される。
2) 衝突後、衝突する前とは遅い速度で跳ね返される。
3) 衝突後、衝突する前より速い速度で跳ね返される。
まず、3) はありえない。なぜなら、エネルギー保存の法則に反するからである。もし、衝突の瞬間に外部からのエネルギーが加わるなら、ありえるかもしれないが。もちろん、この場合は、エネルギー保存の法則は成立するけれど。
では、1) は、どうだろう。前後で同じ速度になるわけだから、運動エネルギーは前後で同じことになる。つまり、衝突の相手には、エネルギーを与えないことになる。まさに、弾性衝突である。
ところで、「合っているようで、実は間違っている。」と記した。弾性衝突の説明であれば、上記で済むはずである。
ここで、2) はどうだろうか。衝突後、衝突する前とは遅い速度で跳ね返される。古典力学では、このことは説明できるであろうか。衝突する相手が、電子の運動エネルギーを吸収しない限り、衝突後に電子が遅くなることはありえないはずだ。。。(いや、そうとも言い切れないが。)
しかし、我々の現実の世界では、2) も成立する。もちろん、普段の普通の生活では感じることができない。本当は、知らないところで、身の回りで起きている現象なのに。
いや、厳密には、古典力学でも説明できる。壁にボールが当たった場合だ。運動エネルギーは、壁に熱エネルギーに変換される時は、成り立つ。
したがって、衝突されたもの(原子)が動かなくても、別のエネルギーの形になれば、衝突後の電子は速度が遅くなってもいいはずだ。
ここで、量子力学が登場する。量子とは、飛び飛びの値を持つものであり、コンピュータのような1と0の2進数のようなものと考えてもよい。
話を戻そう。衝突した時、電子が持つ運動エネルギーは、衝突した原子や分子にエネルギーを渡すから、衝突後の電子の速度は遅くなる。これは、古典力学で説明できる。しかし、与えたエネルギーはどうなるのだろうか。運動エネルギーになり、原子や分子が動くならば、何ら問題がない。でも、前回の前提では、原子や分子は、電子よりもはるかに重い。電子がぶつかっても、びくともしない。動かない。
したがって、1) のような弾性衝突ではない限り、原子や分子に与えたエネルギーは、どこかに行ってしまったのである。
どこに行ったのか。
それは、原子が、原子軌道を持っており、電子は、複数の電子軌道に存在しているためである**。
電子は、陽子と電子との間に相互の力を働かせており、自分が存在したい場所に存在している**。しかし、外部から運動エネルギーを持った電子が衝突*すると、その運動エネルギーは、原子の内部エネルギーに変換される。ここでいう内部エネルギーとは、位置エネルギーのことである。位置エネルギーが増加するのであれば、衝突された原子は運動エネルギーも持ち動く必要はない。
先ほどの壁とボールの例で行くと、熱という内部エネルギーに変換されることと同じイメージである。
したがって、2) が成り立つことになる。このことを、非弾性衝突と呼ぶ。
ところで、電子が衝突した時に、弾性衝突になるのか、非弾性衝突になるのかは、どう決まるのだろうか。このことは、次回、考えたいと思う。
*) ここで、衝突といっても、直接ぶつかることではない。(そもそも、電子と電子が衝突することはありえない。小さいもの同士が衝突することは確率論からいってありえない、と考えると思う。もちろん、その通りだが、その前に、マイナスとマイナスのものがクーロン力に逆らって衝突するのであろうか、考えてもらいたい。)クーロン力が働いているため、相互の力が働き合うことだけでも、仕事をしたことになるため、エネルギーの授受が行われる。したがって、後述するが、速度の速い電子が原子の近傍を通過する場合、その速度、つまり、相互に働き合う時間によっては、エネルギーの授受に要する時間が足りなくなることも考えなければならない。
**) ところで、なぜ電子は、決まった軌道にいるのであろうか。なぜ自分が存在したい場所があるのだろうか。なぜ、ぐるぐる回っている電子が、量子かしているのだろうか。なぜ、原子核の中の陽子と結合しないのだろうか。まさに量子力学の面白いところ。このあたりの話も、いつかしたい。
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