この町に来て、このカフェに通うようになり、1カ月がたった。大人の雰囲気の場所に、制服姿の高校2年生が座っている姿は、どう見ても違和感しかなく、なぜ、僕がここに通うようになったのか、よくわからない。
でも、他に遊ぶところもなく、友達もいない僕は、この空間が、癒しの空間になっていたことは確かである。
今日も、お客さんは、誰もいなかった。カウンターに座り、ホットコーヒーをゆっくり飲むのが日課になっていた。
ふと、カフェの壁を見ると、絵や陶器が多く置かれていることに気付いた。
「マスター、絵とか陶器とかやるんですか」
私は、マスターに尋ねた。マスターは、
「自分で描いたり、焼いたりしているんだよ」
と答え、いくつかの作品を紹介してくれた。
この町の風景、もの、ひと、ことが描かれていた。
それぞれに、私の知らない世界、躍動感が伝わり、まだ1か月しか生活していないこの町のことが、少しわかってきた気がした。
「カランコロン」
扉が開く音が聞こえた。
「マスター、今日も遅れてごめんなさい。今、準備しますねー」
いつものさやかの元気な声が響いた。
「あれ、哲也君、おはよう。昨日は大丈夫立った?家に帰ってから、痛いところとかなかった?」
と、僕を気遣ってくれた。
そう。ゴールデンウィークの昨日、僕は、岩の上で足を滑らせて、海に落ちたのだった。
「ありがとう。大丈夫だった。いろいろありがとうね」
僕は、そういうと、ホットコーヒーに手をかけた。
その時、ぐらっと、地面が揺れた。
「じ、地震?」
そう、僕がつぶやくと、大きな揺れが襲ってきた。
僕は、目をつぶり、カウンターの下に隠れた。
マスターもさやかも、机の下に隠れたみたいだった。
ガラス同士が当たる音がして、これは、グラスやコップ、陶器も割れちゃうだろうな、と思った。
しばらくして、揺れが収まって、3人は、顔をだした。幸い、3人とも怪我もなく、無事だった。
もう1つ、不思議なことに、カフェのものは、何一つ壊れてなく、そのままだった。
外を見ると、地面に亀裂が入っているところがあったり、電柱が倒れていたりしていた。
テレビをつけると、震度6だったようだ。しかし、このカフェだけは、何事もなく平穏無事だった。
「びっくりしたね。結構、被害が出ているみたいだけど、ここは、被害がなくてよかったね」
僕は、そう話しながら、3人の無事に安どした。
「ほんとに怖かったね」
さやかは、そういいながら、いつもの配置についていた。
しかし、この町に来てから、これで3回目かな。雷、岩、地震。すべて、なにが起きたかわからないんだけど、命は助かっている。もしかすると、なにか、僕を守ってくれている神様がこの町にはいるのではないか、そんな気がしてならなかった
© 如花 康秀 2023-
1 高校時代編
(1) 出会い
(2) 引っ越し
(3) 再会
(4) 初登校
(5) 不良のリーダー
(6) カフェ
(7) 実力試験
(8) ゴールデンウイーク
(9) 気づき
(10) 並木通り
(11) 転機
(12) 友達
(13) 新しい生活
(14) 翌日から
(15) 体育祭
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