グッド・アンサー

1 高校時代 (16) 梅雨

そろそろ梅雨が近づいてきた5月末、この町も、雨の日が多くなるようになってきた。シトシト降る雨、湿度も高くなりつつあり、ジメジメとした天気は、僕の気分をさらに下げる要因となっていた。

今日は、さやかは学校に来ていなかった。1年生は、特別講義があり、美紀はそちらに参加することになっていた。

相変わらず、僕には、友達ができてない、クラスでも目立たない存在であり、それはそれで、今のポジションが気に入っていて、誰にも邪魔されることもなく、自由を満喫していた。

傘をさしながら、いつものように坂道を下っていった。あの後、不良グループからの音沙汰はなく、安心して坂道を通れるようになったのは、良かった。

いつものように国道からカフェに向かった。

扉を開けると、さやかが目に入った。

「いらっしゃい」

さやかの声が聞こえた。

「アイスコーヒーをください」

僕は、注文をしながら、カウンターに座った。

「あれ、マスターは?」

「今日は、風邪で寝込んでるみたい。突然、店を任されちゃって。」

なるほど、今日、さやかが学校に来てないのは、そういう理由があったのか。今までも、サボりではなくて、責任感ゆえの休みだったかもしれない。

「マスター大丈夫かな。」

「大丈夫みたいよ。熱はそんなにないみたい。」

僕は、少し安心した。

「そういえば、久しぶりだね、さやかさんと話をするのは。」

「そうだったっけ。」

さやかはとぼけてみせた。

「だって、最近、美紀ちゃんとずっと一緒じゃない。」

さやかは、少し嫉妬している様子だった。

「ごめん、ごめん。そういうつもりはないんだ。3人、友達じゃない。」

「あら、それを言ったら、美紀ちゃん、かわいそうじゃない」

そんなやり取りを続けていた。

「ところで」、と、さやかが話しを変えてきた。

「哲也くんは、美紀ちゃんみたいなショートカットの元気な女の子がタイプなの?」

突然の質問が、さやかから飛んできた。

「えっ?うーん、僕は、タイプなんかないよ、その人の中身が良ければだし、似合っていれば、全然OKだよ。というか、僕なんかが、女子の事をとやかくいう権利はないし、失礼すぎるから」

と笑った。

「さやかさんは、昔からロングだったの?」

「私は、今の美紀ちゃんみたいに、ショートカットで、毎日元気いっぱいのやんちゃな娘だったかなー。」

「えー、信じられない。さやかさん、とっても大人びているし、ロング似合ってますし」

僕は、さやかが美紀のようだとは想像がつかなかった。自分の好みのタイプというわけではないが、その雰囲気に、なにか引かれるものがあったのは、事実だった。

「哲也君、ありがとう。」

さやかは、そう言って、微笑み返してくれた。

久しぶりのさやかの笑顔と優しさに触れた一瞬だった。

「そういえば、」

僕は、マスターが言ってた探している人がいる、という話が気になっていたので、聞いてみた。

「マスターから聞いたんだけど、自分からアルバイトやりたいってマスターに頼んだんだって」

「もう、マスターったら、口が軽いんだから」

さやかは、少し怒り口調だった。

「誰かを探しているって」

僕は口を滑らせた。さやかは、観念したようで、

「そうよ。ある人を探すために、ある人がいつ戻ってきてもいいように、ここで、待ってるんだ」

少しはにかみながら、さやかはそう答えた。

「へぇー。思い出の人、あるいは、初恋の人かな?」

僕は意地悪く聞いてみた。

「うーん、内緒」

さやかは、そうはぐらかした。多分、図星だったんだと思う。

「そういう人がいるなんて、ロマンチックだね。」

そう言って、別こ話題に移った。

「そういえば、初めてあったのは、神社だったっけ?」

「えっ」

さやかは驚いた表情を浮かべた。

「2ヶ月前の4月、海沿いの神社だよね」

さやかは、安心したよう感じで、落ち着きを取り戻し、

「そうだったよね。お祈りしている人がいたから、気になって、バイクを停めて、私もお祈りしたんだった」

「偶然な出会いだね。それで、今こうしているんだもんね」

僕は、出会いの不思議さと大切さが身にしみてわかった気がした。そして、その神社、神様にに感謝した。

「哲也君、なぜ、あの神社にいたの?」

今度は、さやかが、僕に質問を投げかけた。

「え、あ、うーんと」

僕は1から説明するのが、大変だなと思った。でも、頭を整理する意味でも、話を続けた。

「昔、あの神社で、命拾いをしたことがまあってね。その時の御礼を神様にしてたんだ。」

「へぇー、命拾いって、どんなこと?」

「カランコロン」

さやかが質問をすると同時に、扉が開いた。

「おじゃましまーす」

美紀が元気よく入ってきた。

「いらっしゃい。いつものでいい?」

さやかはそう答え、準備に取り掛かった。

「哲也先輩、おはようございまーす」

相変わらず元気で明るい美紀だった。

「さやか先輩、知ってます?哲也先輩って、すごいんですよー」

「いきなりどうしたの?」

僕は慌てて、聞いた。

「優しいし、話も面白いし、それでいて、強いの!」

「この前なんか、武田たちを2回もやっつけたんだよね!」

「えっ?」

さやかの手が止まった。

僕は、慌てて、

「人違いだよ、僕は、噂通り、ボコボコに負けたんだー。怖かったし痛かったよ」

「哲也先輩、かわいい。なんで、そんな嘘をつくんですかー」

「美紀ちゃん、哲也君、どうやってやっつけたの?」

「突然で分からなかったんだけど、ピカーって光って、目をつぶっちゃったんだけど、目を開けたら、みんな倒れてたの。かっこよかったー」

「へぇー、哲也君、強いんだねー」

やばい、さやかにも知られてしまった。あー、どうしよう。

「雷でも落ちたのかな?僕の力ではないよー」

僕は、弁解して、話をそらそうとした。

その後は、他愛もない話をし、時が流れた。

美紀が、

「さっ、哲也先輩、帰ろ」

と言った。

さやかは、

「ほんと、二人は仲がいいわねー」

なんて言いながら、出口まで送ってくれた。

家に帰り、今日を振り返りながら、一つの疑問が浮かんだ。あれ?さやかの家ってどこなんだろう。

次々に起こる不思議なことと、なぜだらけの人間関係に頭を抱えながら、眠りについた。

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