そろそろ梅雨が近づいてきた5月末、この町も、雨の日が多くなるようになってきた。シトシト降る雨、湿度も高くなりつつあり、ジメジメとした天気は、僕の気分をさらに下げる要因となっていた。
今日は、さやかは学校に来ていなかった。1年生は、特別講義があり、美紀はそちらに参加することになっていた。
相変わらず、僕には、友達ができてない、クラスでも目立たない存在であり、それはそれで、今のポジションが気に入っていて、誰にも邪魔されることもなく、自由を満喫していた。
傘をさしながら、いつものように坂道を下っていった。あの後、不良グループからの音沙汰はなく、安心して坂道を通れるようになったのは、良かった。
いつものように国道からカフェに向かった。
扉を開けると、さやかが目に入った。
「いらっしゃい」
さやかの声が聞こえた。
「アイスコーヒーをください」
僕は、注文をしながら、カウンターに座った。
「あれ、マスターは?」
「今日は、風邪で寝込んでるみたい。突然、店を任されちゃって。」
なるほど、今日、さやかが学校に来てないのは、そういう理由があったのか。今までも、サボりではなくて、責任感ゆえの休みだったかもしれない。
「マスター大丈夫かな。」
「大丈夫みたいよ。熱はそんなにないみたい。」
僕は、少し安心した。
「そういえば、久しぶりだね、さやかさんと話をするのは。」
「そうだったっけ。」
さやかはとぼけてみせた。
「だって、最近、美紀ちゃんとずっと一緒じゃない。」
さやかは、少し嫉妬している様子だった。
「ごめん、ごめん。そういうつもりはないんだ。3人、友達じゃない。」
「あら、それを言ったら、美紀ちゃん、かわいそうじゃない」
そんなやり取りを続けていた。
「ところで」、と、さやかが話しを変えてきた。
「哲也くんは、美紀ちゃんみたいなショートカットの元気な女の子がタイプなの?」
突然の質問が、さやかから飛んできた。
「えっ?うーん、僕は、タイプなんかないよ、その人の中身が良ければだし、似合っていれば、全然OKだよ。というか、僕なんかが、女子の事をとやかくいう権利はないし、失礼すぎるから」
と笑った。
「さやかさんは、昔からロングだったの?」
「私は、今の美紀ちゃんみたいに、ショートカットで、毎日元気いっぱいのやんちゃな娘だったかなー。」
「えー、信じられない。さやかさん、とっても大人びているし、ロング似合ってますし」
僕は、さやかが美紀のようだとは想像がつかなかった。自分の好みのタイプというわけではないが、その雰囲気に、なにか引かれるものがあったのは、事実だった。
「哲也君、ありがとう。」
さやかは、そう言って、微笑み返してくれた。
久しぶりのさやかの笑顔と優しさに触れた一瞬だった。
「そういえば、」
僕は、マスターが言ってた探している人がいる、という話が気になっていたので、聞いてみた。
「マスターから聞いたんだけど、自分からアルバイトやりたいってマスターに頼んだんだって」
「もう、マスターったら、口が軽いんだから」
さやかは、少し怒り口調だった。
「誰かを探しているって」
僕は口を滑らせた。さやかは、観念したようで、
「そうよ。ある人を探すために、ある人がいつ戻ってきてもいいように、ここで、待ってるんだ」
少しはにかみながら、さやかはそう答えた。
「へぇー。思い出の人、あるいは、初恋の人かな?」
僕は意地悪く聞いてみた。
「うーん、内緒」
さやかは、そうはぐらかした。多分、図星だったんだと思う。
「そういう人がいるなんて、ロマンチックだね。」
そう言って、別こ話題に移った。
「そういえば、初めてあったのは、神社だったっけ?」
「えっ」
さやかは驚いた表情を浮かべた。
「2ヶ月前の4月、海沿いの神社だよね」
さやかは、安心したよう感じで、落ち着きを取り戻し、
「そうだったよね。お祈りしている人がいたから、気になって、バイクを停めて、私もお祈りしたんだった」
「偶然な出会いだね。それで、今こうしているんだもんね」
僕は、出会いの不思議さと大切さが身にしみてわかった気がした。そして、その神社、神様にに感謝した。
「哲也君、なぜ、あの神社にいたの?」
今度は、さやかが、僕に質問を投げかけた。
「え、あ、うーんと」
僕は1から説明するのが、大変だなと思った。でも、頭を整理する意味でも、話を続けた。
「昔、あの神社で、命拾いをしたことがまあってね。その時の御礼を神様にしてたんだ。」
「へぇー、命拾いって、どんなこと?」
「カランコロン」
さやかが質問をすると同時に、扉が開いた。
「おじゃましまーす」
美紀が元気よく入ってきた。
「いらっしゃい。いつものでいい?」
さやかはそう答え、準備に取り掛かった。
「哲也先輩、おはようございまーす」
相変わらず元気で明るい美紀だった。
「さやか先輩、知ってます?哲也先輩って、すごいんですよー」
「いきなりどうしたの?」
僕は慌てて、聞いた。
「優しいし、話も面白いし、それでいて、強いの!」
「この前なんか、武田たちを2回もやっつけたんだよね!」
「えっ?」
さやかの手が止まった。
僕は、慌てて、
「人違いだよ、僕は、噂通り、ボコボコに負けたんだー。怖かったし痛かったよ」
「哲也先輩、かわいい。なんで、そんな嘘をつくんですかー」
「美紀ちゃん、哲也君、どうやってやっつけたの?」
「突然で分からなかったんだけど、ピカーって光って、目をつぶっちゃったんだけど、目を開けたら、みんな倒れてたの。かっこよかったー」
「へぇー、哲也君、強いんだねー」
やばい、さやかにも知られてしまった。あー、どうしよう。
「雷でも落ちたのかな?僕の力ではないよー」
僕は、弁解して、話をそらそうとした。
その後は、他愛もない話をし、時が流れた。
美紀が、
「さっ、哲也先輩、帰ろ」
と言った。
さやかは、
「ほんと、二人は仲がいいわねー」
なんて言いながら、出口まで送ってくれた。
家に帰り、今日を振り返りながら、一つの疑問が浮かんだ。あれ?さやかの家ってどこなんだろう。
次々に起こる不思議なことと、なぜだらけの人間関係に頭を抱えながら、眠りについた。
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