雨の匂いが充満する6月初旬、町は梅雨の深い静けさに包まれていた。哲也は学校を後にし、足早に坂を下りながら、心のオアシスである小さなカフェへと向かっていた。扉を開けると、予期せぬ光景が広がっていた。マスターの代わりにカウンターに立つさやかが、不意に哲也の目に飛び込んできた。

「さやかさん、こんな日には珍しいね?」哲也が声をかけると、さやかは微笑みながら「マスターが風邪で休んでいて、急遽店番を頼まれたんだ」と答えた。哲也は心配そうに「マスターは大丈夫かな?」と尋ねた。

二人は久しぶりにゆっくりと会話を交わし、哲也はさやかに意地悪な質問を投げかけた。「さやかさんは、昔は美紀みたいに元気いっぱいだったの?」さやかは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻し「そうね、昔はもっとやんちゃだったかもしれないわ」と告白した。哲也は、さやかが過去に美紀のような性格だったとは想像もつかないほど、今の彼女は落ち着いていて、大人びて見えた。哲也はそんなさやかの新たな一面に驚きつつも、その雰囲気に惹かれる何かを感じていた。

そして、哲也はカフェで働くさやかの真意を探るべく、「なぜ、カフェで?」と尋ねた。さやかの答えは意外なものだった。「ここで、ある人を待っているの」と彼女は静かに語った。その言葉には、淡い恋心のようなものが感じられ、哲也はさやかの意外な一面を知ることになった。

やがて話題は、二人が初めて出会った海沿いの神社へと移った。その日、二人は偶然にも同じ場所で願いをかけていた。哲也はその偶然の出会いが、今の二人を繋いでいることに心から感謝した。そして、哲也が神社で命の恩人に感謝を伝えていた話をすると、さやかの表情に微妙な変化が現れた。

「それって、もしかして…」さやかが言葉を濁すと、哲也は疑問に思った。「どうしたの?」さやかは一瞬躊躇いながらも、「いえ、何でもないわ」と言って会話を切り上げた。しかし、哲也の心には小さな疑問が残った。彼女の反応は、まるであの日の出来事について何か知っているかのように見えた。

その瞬間、哲也の心にはあの日の出来事が鮮明に蘇ってきた。雷が鳴り響き、木が倒れてきたとき、自分の命が危ういと感じた。しかし、不思議なことに、突然の危機から無事だった。それはまるで、見えない何かが自分を守ってくれたかのようだった。

哲也は、もしかすると、さやかがその「見えない何か」に関係しているのではないかと思った。彼女の神社での願い事が、自分を救ったのかもしれない。この繋がりに気づいた哲也は、さやかに対する感謝ともう一つの深い絆を感じるようになった。

カフェを後にする時、哲也はさやかに向かって「今日はありがとう、また話しましょう」と言った。彼女の表情には、何かを伝えたいという想いが満ちていたように見えた。外の雨はまだ降り続いていたが、哲也の心は温かな想いでいっぱいだった。二人の間には、これから紐解かれる新たな物語が待っているような予感がしていた。

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1 高校時代 (16) 梅雨

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