海浜町には、海浜鉄道が走っていた。この鉄道は、国鉄から移管された第三セクターであり、海浜町の足になっている貴重な移動手段となっている。
高校の坂道から国道をまたぎ、真っすぐ行ったところにあり、海に沿い線路が走っている。港で陸揚げした魚介類や地元の野菜を貨物で街へ運ぶこともしている。
僕はいつも徒歩で通学しているが、かなりの生徒は、自転車を使っていた。
今日は、土曜日。授業もなかったので、駅や港の散策をしようと、徒歩で向かった。
閑散期のローカル線ということもあるが、観光列車を走らせたりと、工夫しながら、なんとか黒字を達成している鉄道であった。
駅舎やホームを見たりしながら過ごしていると、1両の列車がやってきた。踏切が降り、また逆方向からも列車が来る気配がした。どうやら、すれ違いをするようだった。
やがて、お互いの列車が来て、すれ違いをし、別々の方向に列車が向かっていった。踏切は上がり、ホームから人がやってきた。
土曜日の昼の時間ということもあり、通学の学生はほとんどいないが、駅周辺のお店に買い物で来る客が多い印象だった。
その一団の中に、偶然、さやかを見かけた。ちょうど踏切を渡るところだった。
「あれ、さやかさん、おはよー。鉄道で来たの?」
僕は、質問をした。
「そうだよー。私の家は、隣町だからね」
あ、そうだったんだ、さやかは、隣町から鉄道で通っていたのか。
「今日は学校ないよね、これからバイト?」
「そうだよ。まぁ、駅から離れてるし、いつも通り、お客は誰もいないと思うけどねー」
「そっか。じゃー、一緒にカフェ行かない?」
僕は、そう提案して、歩き始めた。
その時、踏切が降り、始発の貨物列車が、汽笛を鳴らしながら、3番線から街に向かって走り始めた。
貨物列車は、気まぐれな運行で、定刻に運行はしておらず、いきなり踏切を渡ってくる感じだった。
ふと踏切を見ると、一台のベビーカーの車輪が踏切の溝にはまり、動けなくなっていた。これはやばい。みんなが最悪を覚悟した。
僕は、なんとかしなきゃと思い、踏切の中に入り、ベビーカーの車輪を抜き、急いで踏切の外に出ようとした。誰もが目をつぶり、もうだめだ、と諦めたときに、僕の手前すれすれで貨物列車が急停車した。
そのとき、僕は目を開けていたが、歯を食いしばり、力を込めていた。そうしたら、なにか強い光が僕の体の周りから四方八方に広がり、時間が止まったようになっていた。その光は、強く、雷のようだった。
なにかが僕の力で起きたことは明らかだった。時空が歪んだ気もしたし、何かの作用で力が働いたのかな、と思う現象だった。
無事にベビーカーをお母さんに渡し、一息ついた。周りの人は、安堵しながら、元の行動に戻って行った。
さやかが声をかけてきた。
「哲也君、すごい!無事で良かったね!」
「うん。ありがとう。」
「美紀ちゃんも言ってたけど、哲也君は、行動力とやさしさがあるし、力持ちなんだねー」
と、優しい言葉をかけてくれた。
「そんなことないよ。でも、本当に良かった」
そんな事を話しながら、カフェに向かった。
カフェに入ると、すでに美紀が座っていた。
「聞きましたよ、先輩!踏切で人を助けたんですって!」
目をまんまるにしながら、僕に話しかけてきた。狭い町だから、あっという間に噂が広がっていた。
「すごかったよー。かっこよかったよ」
さやかが追い打ちをかけてきた。
「えー、さやか先輩見てたんですかー」
「美紀ちゃんに、かっこいいところ、見てもらいたかったね」
さやかは、そんな事を言いながら、カウンターに入っていった。
Reply 一覧0