4月もあっという間に過ぎ、ゴールデンウィークに入った。高校は暦通りの学年暦だったが、連休もあり、緊張した転校生活も、少し休憩をとれることになったことがうれしかった。
父親は、相変わらずの仕事人間で、世界を飛び回るようにもなっていた。それはそれで、自慢の父親ではあった。
僕は、休みだからといって、できない勉強を取り戻すわけでもなく、というか、やる気もなく、なにをしようかと朝からぼーっとしていた。
そうだ、あの岩に行ってみよう。そう思って、あの時の岩に来てみた。5月初旬の気持ちよい陽気で、相変わらずの潮風が心地よかった。
目をつぶると、波の音が、子守歌のように聞こえ、気持ちの良い、僕だけの秘密の特等席だった。どれくらい時間がたっただろうか。そろそろ、のども乾いてきたし、と思い、目をあけて、岩を歩こうとした。その時、ちょうど苔があったのか、足を滑らせ、岩から海の方へと落ちてしまった。
目が覚め、気づいたときは、カフェだった。マスターとさやかはカウンターにいて、美紀ちゃんが、そばにいた。
「あ、目が覚めた。大丈夫ですか。哲也先輩」
美紀ちゃんは、心配そうに僕をのぞき込んできた。
「あれ、どうして僕はここにいるんだろう。たしか、岩の上で足を滑らせて・・・。」
さやかが、カウンターから声をかけてきた。
「大変だったんだから、ここまで運んでくるの。」
「あれ、でも、どこも怪我をしていない。頭もいたくない。不思議だな。」
この町にきてから、2回目の不思議な経験だった。
なにか、僕を、この町が守ってくれているような錯覚に陥っていた。
僕は、さやかにお礼を伝え、マスターに、アイスコーヒーをお願いした。
© 如花 康秀 2023-
1 高校時代編
(1) 出会い
(2) 引っ越し
(3) 再会
(4) 初登校
(5) 不良のリーダー
(6) カフェ
(7) 実力試験
(8) ゴールデンウイーク
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